ミネラルタウンの陽気な魔法使いたち

「カーターさん、カーターさん、カーターさぁぁぁーん!」
太陽も昇らぬ早朝、甲高い叫びをあげて教会にとびこんできた少女は、長椅子に腰掛け新聞を顔に乗せたまままどろんでいたのんびり屋神父につかつかと歩み寄り、新聞をもぎ取りました。
「いやだ、カーターさん、これ逆さまですよ!」
「ふわ〜、政治欄というのはひっくり返して読むべきものなのですよ」
牧場の娘に不意打ちを食らわされたカーターは寝ぼけ眼で冗談を言うと大きく伸びをしました。神父のそんな超スローペースにクレアはかまうことなくリュックをあけ、立派なかぼちゃをとりだします。
「神父、忘れたんですか!! 今日はかぼちゃ祭りの日ですよ」
カーターの返事も待たずにクレアは早口に話を続けます。
「で、ちょっと考えてもらいたいのですが、このお祭り、毎年のように子供たちにお菓子をあげるだけじゃ刺激も面白味も新鮮味もまるでないじゃないですか! いくらこのミネラルタウンが変化と改革を好まぬカトリック教の町といえどもですね、こんなマンネリ化したお祭りから脱却したいと私は考えた! そこで神父に提案があるのですが」
「まさかこのタイミングで牧師になれなんておっしゃらないで下さいね」
「その手もあったか! …でも違います!」
クレアの提案にカーターは驚きと感心の二つ返事でそれを承諾しました。


「クレアおねぇーちゃん、お菓子ちょーだい!」
かぼちゃ祭りのおやつをせびろうとユウ、メイの仲良し2人組はクレアの家の戸をノックしました。そんな2人を迎えたのは黒いケープをまとったずんぐりむっくりの栗色の髪の魔法使いと、黒いひらひらのワンピースに赤い裏地の黒いマントを被った金髪の魔女。ユウたち―と2人に紛れてお菓子のおこぼれを狙ってやって来たポプリまでびっくり仰天! わーっと悲鳴をあげます。

「いらっしゃい、かわいい子ねずみちゃん〜!」
「わざわざ訪ねてきてくれたんだねぇ、嬉しいねぇ〜!」
「わたしゃら、食いしん坊のロジーナにレッカーマウル、おいしいお菓子とかわいい子供にゃ目がないのさ!」
「さて、今日はこのかぼちゃをつかってひとつ、甘い魔法のお菓子をお目にかけようねぇ!」
陽気な魔女たちの言葉に子供たちの恐怖心はいっぺんに吹き飛びます。ユウたちを家に招き入れると魔女に魔法使いは魔法の準備です。魔女がかぼちゃを斧でちいさく切って魔法の鍋に入れれば、たちまち鍋から甘い香りが立ち上ります。そこにまっしろの液体をたぷたぷ注いでしゃもじで鍋の中をひとすくい! かぼちゃフィリングのできあがり。

魔法使いさんは、白い粉末に魔法の粉と黄色がかったふにゃふにゃの薬を混ぜ合わせます、これを魔法の白い箱にいれて少し待つだけ! りっぱなパイ生地のできあがり。

「さあよくご覧! この生地を魔法の棒でのばしてお皿にのせて」
「なかにかぼちゃのフィリングをつめて」
「魔法のかまどに入れて扉をバタンと閉めればあとは待つだけ、こんがり焼きましょう! パンプキンパイ!」

2人が呼吸を合わせて唱えればオーブンから早くもおいしそうな匂い。そしてこれが最後の魔法の合言葉。

「3、2、1…チーン!」


黄金色に焼きあがったパンプキンパイを切り分けて子供たちにふるまいます。魔女が甘く温かい紅茶をいれてあげます。ユウもメイもポプリも素敵な魔法のパイに舌鼓を打ちます。
「うわぁ、すごくおいしい!」
「こんなおいしいお菓子、メイ、食べたことない!」
「えへへっ、お兄ちゃんに内緒でたくさん食べちゃおう!」
喜ぶユウたちの顔に魔女も魔法使いも満足げに顔を見合わせ微笑みます。大きなパイ皿いっぱいに焼いたかぼちゃパイも、食いしん坊の子供たちにかかってはひとたまりもありません。まるで魔法がかけられたかのようにあっというまになくなってしまいました。


「でも」とメイが首をかしげます。「魔女さんに魔法使いさんはどこから来たの?」
ふふっと2人は笑って、それじゃあそろそろ種明かしをしましょうね、と扮装を解きます。 するとそこにはクレアとカーターの姿! 子供たちはまたまたびっくり仰天!
「クレアおねぇちゃんにカーターさんだったんだ!」
そのとおり、どうやら私たちのいたずらはうまくいったようですね。カーターの目配せにクレアは大はしゃぎでうん! とうなずきました。

そうクレアの提案―。ある国にはかぼちゃ祭りに似たお祭りがあるんだそうだ。ここと違うのは子供たちがお化けに変装して「お菓子ちょうだい、くれないといたずらするぞ!」と言うこと。それなら私たちは逆に、お菓子をふるまう側がお化けか魔法使いに変装して子供たちを脅かしてあげましょうよ!


「さてと」カーターさんが子供たちの肩をたたきます。「それではみんなにとっておきの魔法の言葉を教えてあげましょうね。この魔法を唱えれば、だれもがとっても幸せになれるんですよ」
今日これからお菓子をわけてくれた町中の人を幸せにしてあげてくださいね―にっこり笑ってカーターさんが唱えた素敵な素敵な魔法の言葉、それは…。


―ありがとう!

ハローウィンことかぼちゃ祭りのお話。子どもが扮装するのもかわいらしいけれど、大人が扮装して子どもをそれとなく驚かす…なんてカーターさんに提案したら絶対乗ってくれそうな気がします。魔女と魔法使いがお料理をしていればふつうの小麦粉やバターなんかもきっと、子どもの目には魔法がかったものに見えるはず☆


inserted by FC2 system