2011年5月5日 ムーンライダーズ 火の玉ボーイコンサート@メルパルクホール

セットリスト

≪あの娘のラブレター≫
≪スカンピン≫
≪酔いどれダンスミュージック≫
≪火の玉ボーイ≫
≪午後の貴婦人≫
≪地中海地方の天気予報〜ラム亭のMAMA≫
≪ウェディングソング≫
≪魅惑の港≫
≪髭と口紅とバルコニー≫
≪ラム亭のMAMA〜蛍の光≫
≪マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン≫
≪頬うつ雨≫
≪月の酒場≫
≪アルファビル≫
≪砂丘≫

ゲストさまコーナー
≪達者でナ≫
≪愛の列車≫
≪風にさらわれて≫
≪リラのホテル≫
≪東京の屋根の下≫
≪ピーター・ガンのテーマ≫

≪ヴィデオボーイ≫
≪バックシート≫
≪6つの来し方行く末≫

アンコール
≪大寒町≫



えー、それではまた例によってつらつらえんえんと書いてまいりたいと思います。卒業論文並みの長さになること請負ですので、お時間いただけない方はここから先はスルーのほど、よろしくお願いいたします…。



お膳立て
5月5日は、浜松町にてムーンライダーズの結成35周年記念ライブ、火の玉ボーイコンサートがありました。豪華なゲストさまもお招きして、子どもの日にイカしたアラ還たちの渾身のライブ!ここは童心に帰って思う存分、騎士団たちの雄姿をこの目に収めようと勇み勇んでライブ鑑賞に行ってまいりました。

ちなみに前夜は久しぶりの徹さまの夜。今回は演目が決まっているということもあり、これまでのライブ音源や『火の玉ボーイ』のアルバムを夜通し聴いて、予習に勤しんでおりましたです。



基本的な舞台配置
(奥:東京中低域さん)
後右:かしぶちくん、夏秋くん
中左:ビットールさん
前:くじらさん、慶一さん、ふーちゃん、ばんちょ



本題
さて、会場メルパルクホールは都営大江戸線大門駅から歩いてすぐとのこと!道に迷ったら誰かに聞けばいいや♪と軽い気持ちで浜松町に向かいまして、ちゃんとお約束通り道に迷いました。しかもまわりには誰もいない、地図もない、なんてロマン的なんでしょう!なんてノリノリで道なき道を歩いていたら、突然視界に人だかりが…!


まあなにはともあれ会場に到着し席へ。あまり舞台に近いと大本命の岡田徹さんがなにも見えないということが去年の春に発覚したことを踏まえ、今回も少し後ろめ。でも後ろからだって岡田さんの姿はあまりよく見えません。でもその見えないもどかしさがいいんじゃないか!本当に美しいものは目に見えないと小さな(=星の)王子さまが言って…!(強制終了)


それにしても今日はキーボード一式どこに置いてあるのだろう、左隅につんであるあれかしら…?なんて思いながら席に座っておとなしく本を読んでいたらブザーが鳴りまして開演です!


まずは前回のAXからさらにパワーアップした口上。
さすがに今回は良明さんの音読ではありませんでしたが、会場は早くも笑いと拍手に包まれます。そして猛々しい金管音が鳴り響き、東京中低域さんたちが入場(後ろ扉より)。ステージに上がってひとしきり演奏。


11名から構成されるメンバーが鳴らす音は非常に「前衛的」、フモールに満ちてどことなく奇抜なのもなるほど、「11」が「ひょうきんな数」と考えられているためか。そうこうするうちひとつひとつの音がまとまりを持ち始め、いつしか流れたのは≪魅惑の港≫。さあ、滑稽な波に流されたどりついた魅惑の港に騎士団が入場してまいりました。



『火の玉ボーイ』
≪あの娘のラブレター≫
作詞:岡田徹・鈴木慶一 作曲:岡田徹

しょっぱなからなんで岡田さんの曲なんだろうなァ…このアルバム。それにしても、岡田さん、どこにいるんだ?キーボードと思しき楽器の後ろ空っぽだし…っまさか、またあの、10年前の悪夢が…?!と早くも不安になって慶一さんのほうに目を向けたら!慶一さんに隠れるようにちょろっと見えた岡田さんの右手…なんっ舞台中央にグランドピアノが置いてあったのです。驚きで言葉を失っているうちに、素敵なピアノ音が聴こえてきました*力強いギターや、安定したドラムスに、見え隠れする岡田さんのピアノ。くじらさんのトランペットもそして、この曲にきらびやかな色合いを添えます。


慶一さま:みなさん、こんばんは、ムーンライダースです!
(のっけからM精神全開の慶一さま。そう来るなら、こちらはドイツ語風に、「モーントリデルス」って発音してあげますわ*)



≪スカンピン≫
作詞曲:鈴木慶一

この曲は非常に懐かしい。ライダーズ聴き始めのころに、この曲を覚えようとミュージックプレイヤーにお気に入り登録して、渋谷に行って道に迷った時に聴いた≪スカンピン≫は、余計に物悲しく、虚しく、辛辣でそして切実だった…そんなことをふっと思い出しながら聴けると思ったら、まったく違う印象を受けました。むしろ素寒貧という時代を、逆境を、かいくぐり、諦念を越えて、一点の高みからすべてを識る先見の眼差しを曲に投じている感じ。辛さを笑い飛ばそうと悠長に構えているとはあまりに楽観的な考えかもしれませんが、そうした余裕すら感じられる≪スカンピン≫に、それまでの暗いイメージがすっかり払しょくされました。だけど曲切れの岡田さんのピアノは変わらず。はらはらと舞い落ちる切なさの片鱗のごとくでとてもきれいでした*



≪酔いどれダンスミュージック≫
作詞曲:鈴木慶一

ライブ盤ですと『月面讃画』のアレンジを聴いたことがあるこの曲ですが、今回はそれと比べると原曲に忠実でした。歌詞の第一節と第二節の間奏が少し長めに演奏されていました。それにしても気がつけば和太鼓まで用意して、気合いが入っているな、ムーンライダーズ!MOTHERに通じる慶一さんの軽快ポップスの、非常に初々しい作品の一つです。しかしピアノの出番があまりないのが残念!(苦笑)


そして慶一さんが「今日は…素直に一生懸命楽しくやりますから、みなさんも楽しんでいってください。僕らなにせ火の玉ボーイズアンドガールズですから」とごあいさつ。
慶一さまが節操無いライブをするなんて、ワタクシこれまで一度たりとも思ったことありませんわ*だけど素直な慶一さんって申し訳ないけどちょっぴり不気味…。



≪火の玉ボーイ≫
作詞曲:鈴木慶一

さてさて、ゲスト様もぞろぞろとステージの上にあがりまして、アルバムタイトルでもあります≪火の玉ボーイ≫。この単語からついつい、MOTHERのファイアーボールというまさに火の玉に目と、両手両足が生えているだけのモンスターを連想してしまったワタクシ、ホント、不謹慎なファンであります。しかし今日の演奏はむしろ、ファイアーボールのように優しく可愛いイメージすらも感じられるほど。≪スカンピン≫と合わせて、暗く湿っぽいというよりも、一条の斜陽の兆しが感じられるような音。ギターの音も、良明さんのぐっと下唇をかみしめた渾身な演奏も、アルバムの切ない響きに忠実なのに…とても不思議です。



≪午後の貴婦人≫
作詞曲:鈴木慶一

(なんとなくリヒャルト・ワーグナー→コジマ・リストを連想させるこの曲、げふん)
岡田さんが立ち上がり、矢野顕子さんとバトンタッチします。これもアルバム通り。ピアノは矢野さんが、岡田さんはアコーディオンです。夏秋さんが風鈴を鳴らして、ワインレッドのナイトガウンのようなお衣裳に身を包んだ慶一さんが、粋な中年よろしくレディを誘発げふん誘惑します。くじらさんのバイオリンは、35年前のムーンライトリサイタルのときのように軽快にはねて主役の座を独り占めにするのでなく、非常におしとやかにさりげなく、曲を支えている形。曲切れでテンポが変わるところは岡田さんのアコーディオンもコミカルにかき鳴らされ、大満足のアンサンブルでした。


女声コーラスの2人がステージにあがりました♪「斎藤先輩」こと、武川道子さんに、藤野悦子さんです。岡田さん、くじらさん、良明さんの後輩であります私は、おくすることなく「斎藤先輩」をカッコ外してお呼びしてよろしいのかしらん…*



≪地中海地方の天気予報≫
作詞:鈴木慶一・矢野顕子 作曲:鈴木慶一

けだるく淡い音楽、底抜けに暖かく乾燥したミカンの国の香り。素敵な女声コーラスの歌声をうきうきと待っていたら、歌いだしから聴こえてきたのはオペラ歌手並みのカウンター・テナー…斎藤先輩の旦那さま…くじら先輩のテナーでした!あの体格で思わず目じりがさがってしまうほどのうっとりとした高い声を放出できるくじらさんにただただ感服のあまりです;アルバムの音では歌詞にもあるように心地よい「眠気さそうような」曲なのですが、ライブで聴くとむしろ覚醒されてしまうほどです、いやいや、いい意味で!


≪地中海地方の天気予報≫終了、斎藤先輩たちが退場します。そのあとステージ後ろの巨大スクリーンに白井ばんちょの影がでかでかと投射されるという演出。これが偶然なのか、それとも35年前には正式にメンバーではなかった未知のギタリストの到来をひっそりと予言しているのか。「影」といういかようにも解釈可能なモチーフをつかってなにを伝えたかったのか…すこし湿っぽい気持ちで考えをめぐらすうちに、にぎやかなバーの音楽が聴こえてきました。



≪ラム亭のMAMA≫
作詞曲:鈴木慶一

私のイメージだとバーなのですが…違うモチーフなのかな?ともあれ、この曲、残念ながらはっきりとした記憶がありません。がつがつした感じで、もう少し酒場の喧騒よろしくコミカルに演奏してくれても…なんて思っていたのか、まだ良明の影が気になっていたのか、それとも単に次に演奏されるであろう≪ウェディングソング≫に野暮な期待を募らせていたためか。


そうこうするうち飲めや歌えやの大騒ぎが終わりまして一呼吸。岡田さんがピアノのイスに座りなおします。


岡田さん:ずっと昔の明日、くじらくんの結婚に合わせて書いた曲です。サビの部分はできていたんだけど…完成するのに一年ぐらいかかりました。


くじらさんの婚礼の歌だったのか、この曲は!ゴンドラとかヤシの葉とかというモチーフがどことなくイタリアは運河の町ヴェネツィアを連想させるすてきなセレナーデですが、考えてみれば海育ちのくじらさんに「思い出は浜辺に寄せる」、納得です♪だけど湘南とヴェネツィアのドッキングとは…考えてもみなかったなァ。(勝手にドッキングしているのは私だけです)


余談ですがくじら先輩のお家にはきっとあの洗練された立教大学の校友会の封筒が2通も届いちゃって…うらやましいv



≪ウェディングソング≫
作詞:岡田徹・鈴木慶一 作曲:岡田徹

ということで、岡田さんからくじら夫婦に献呈の一品。このアルバムにおいて私のなによりのお気に入りであります岡田さんの感情豊かな前奏がソロでぐぐっと流れたのにすっかり感動してふっと目を閉じて幸せをかみしめようと思った刹那、場内からピアノ音をかき消さんばかりの大喝さい!…想定外のサウンドに驚いて現実を見つめたところ、ステージにあがた森魚さんが出てきて歌っているではありませんか!実はひそかに岡田さんがだみ声で弾き語ってくれないかな…と期待していたワタクシ(なにせ少し前に、夢でムーンライダーズのライブで岡田さんがなにがしかの曲を唄うのを聴いてしまったものだから!)。悲しいやら、拍手で岡田さんのピアノがかき消されたのがくやしいやら…感動の涙が別の形容詞をまといそうになりました*(アホ)どこまでもしょうもない岡田リアンです。しかし淡い感動と正夢への期待があぶくとなって消え失せても、ステージに響く岡田さんのピアノは温かくて…慶一さんが≪6つの来し方行く末≫において、「花」で隠喩した岡田さんの、汚れない素朴な心根の響き、ひとつ年下の校友に捧げられたブーケ。うっとりと聴き入ることができました。


岡田さんいわく、この曲を書いたとき矢野さんから「いい曲だね」って誉めてもらえたのに、そのあと一向に「いい曲」が書けていない、とのことです。若干おどけた調子でごまかす彼ですが、それはきっと理想が高すぎるからですよ!常に、高みを目指しているからこそ、岡田徹さんは「美メロメイカー」の代名詞なのです♪


それにしても今日は岡田さんの肉声たっぷり聴けて幸せだなぁ*


岡田さんのいかにもな自虐が終了したところで、慶一さんが、くじらさんの後ろに置かれたキーボードに腰掛けました。


!!!



まったく目線上に、岡田さんとピアノしか見えない状態に!楽器が置いてある都合で狭かったのか、椅子とピアノの距離も近くて、椅子に若干深く腰掛け肘を優しくしめる岡田さんvピアノのフォームのお手本になります。ひとつ残念だったのはピアノのメイカーが分からないことで…岡田さんのピアノにはもう少し底から湧きあがるような音色を出せるピアノがふさわしい。欲を言えばベーゼンドルファーのような。方や繊細できらびやかなかしぶちさんや慶一さんにはスタインウェイがぴったし!



≪魅惑の港≫
作詞曲:鈴木慶一

…と、岡田さん&ピアノで妄想巧みに膨らませているうちに≪魅惑の港≫が始まりました。それにしてもこの曲、こんなに鍵盤楽器がきれいな曲だったけか?そこに快活できらびやかな声がちらっと聴こえたのは良明さんか?曲切れの間奏はあんな不協和だったかな?それが一瞬にして解決されるのもまた見事であるし…いつになっても「阿片屈」は咳でごまかされ、今なお謎の多いチャイナタウンの魅惑の港。さまざまな発見がそこにあったように思います。


そしてまたゲストの皆様がぞろぞろと入場!歌詞つきの曲としては最後になります、≪髭と口紅とバルコニー≫を大合奏しようというのです。



≪髭と口紅とバルコニー≫
作詞曲:鈴木慶一

もう何も、語りはすまい。なにせワタクシが岡田徹、ひいてはムーンライダーズのサウンドにぐっとのまれ、私にとってムーンライダーズが、たった10秒ほどでこの世に唯一無二の特別な存在となったのも、この曲の前奏、あのピアノの、優雅でかつ大胆な、名状しがたき響きのためなのですから…!ということで、ここまで散々岡田徹、岡田徹を連発してなおもというわけですが、岡田さんのピアノです。とうとう念願の生演奏を聴くことができました…。生きているうちにこれが聴ければ、ムーンライダーズのファンをやっていて悔いはないという瞬間!さて、アルバムではヴァイオリン参加のくじらさんですが、今宵はなんとマンドリン。女声コーラスの歌声も美しく、ドラムスも、ギターも、慶一さんの言葉通り心底楽しそうに、この演奏を送り出しているように感じられました。そしてこの曲の聴かせどころ、くじら&ビットールさんのアルペジョ。アルバムではヴァイオリンとアコーディオンですが、マンドリンとピアノでも遜色なし(いやむしろそのほうがより安定していてきれい)vがしかし、ここまで申し分がなかったのですが、曲切れだけピアノがちょっと尻切れトンボでふがいない感じが…いやいやそれは私の理想が傲慢だったせいに違いない。ともあれ、ピアノ伴奏だけ編曲して、岡田さんがソロでアルバムに入れてくれないかしら…、この曲。



≪ラム亭のテーマ〜蛍の光≫
作曲:鈴木慶一+スコットランド民謡

第一部の最後はこの曲です。アルバム通りにくじらさんのヴァイオリンが流れて。岡田さんのピアノは控えめ。途中いったん盛りあがり、そしてデクレシェンド。≪蛍の光≫の演奏は、東京中低域さんたち。


そして≪蛍の光≫をバックに延々と演説をするあがた森魚さん。
これにて第一部が終了、15分間の休憩です。


休憩あけるのを待っていたら、突然…


ドー ソー ドー …


≪2001年のポルカ≫とは名ばかりに、R.シュトラウスの≪ツァラトストラはかく語りき≫第一部の序奏が流れるというあってはならぬ展開に…(いや想定の範囲ではあったのですが)。


こうして夜の帳が曙を見、自然と宇宙の単純でかつ巨大な偉大さが提示されるとともに、3度の音が抜けて、長和音、ついで短和音と展開されてゆくさまは、神秘さと解決されない謎を暗示します。本来であればこのあとに、この壮大な謎を解決せんとする人間の「憧憬の動機」が流れるはずなのでありますが、その前にコミカルな電子音ですべてか茶化されテクノの世界へ…。


元ネタがあるのか分からないのですが、CTO LAB.も同様のカバーをしていますよね…自然に対する科学技術の象徴とでもいわんばかり。実際のところ、≪ツァラトゥストラ≫はこのあと、第4部まで展開し、全体で35分近くかかる交響詩なのですが、その冒頭の3音だけが異様に独り歩きしているのは…。


とまあ、『火の玉ボーイ』はいうなればライダーズの朝ぼらけであるし、まだまだライダーズには掘るだけ謎が出てきそうであるし、その謎はきっと解決しないでそっとしておくべきなのだろう、ということで…。


第二部が始まりました。ばんちょとふーちゃんが入場せずに待機。間髪入れず、岡田さんのコーナーです。まずは細野ハウスのとなりが岡田ハウスだったことに最近気づいたという導入から…(なぜ大学が同じなのにこれまで気づかなかったのかすでに謎です;)、細野さんと車に乗っていたときに車内ミュージックにラテン音楽がかかっていたそうで、そこから影響を受けた曲を演奏します、というのが話の趣旨でした(実際には普段ほどでないにしても相変わらず岡田さんの見事な脚色で話はふくれあがっていましたが…)。
そういえば以前ラジオで、≪いとこ同士≫が元はラテン系だったという話を聞いたことがあったので、≪いとこ同士≫をやるのかな?と思ったら…。


岡田さん:…それが≪マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン≫です。今日は、女声コーラスのお2人に歌ってもらって、私は、あの歌詞がエロチックなのでネ、ボコーダーかけて唄いますから。


なにかすごくいやな予感しかしないのですが…!



『ムーンライダーズ』
≪マスカット・ココナッツ・バナナ・メロン≫
作詞:鈴木慶一 作曲:岡田徹

お…岡田さんが、岡田さんが…(やもめなのに)この健全エロを、げふんげふん!ボコーダーかけててもなんとなく小粋な嗄れ声が漏れちゃってるよ!私が少し前に夢で見た岡田さんが唄っていたのは、≪ウェディングソング≫じゃなくてこっちだったのね!!もうゆがんだ口元を戻すのも精いっぱい。でもおととしのマンスリーライブのときのようなガツガツ、キュイーン!がない分、ずっとずっとおしとやかでした。岡田さんもさすがにムリと見えて、例の箇所は「ポケット」のまま、♪熟れすぎちゃ 恋の味がしないのさ♪と唄っていましたし。それでもなおしっかりと唄いきる彼の姿はまさしく歌唱の親方。


楽しき青春の日に、こよなく幸福な初恋の力強い衝動が胸を豊かに膨らます時に、美しい歌曲を歌うことは誰にでもできるでしょう、春が彼らのために歌ってくれるのですから。でも、夏、秋、そして冬が来て、多くの心労や苦痛とともに、幸福ななかに諍いや喧嘩が生まれて、いつしかアモルの断絶を味わうことになってもなお、そうした中からでも美しい旋律を生み出せるのは、人生の熟練者であり歌の親方にしかできないものなのです…きっと。


相変わらず表面ではおどけながらも、別離の悲しさを識る岡田さんにしかなし得ぬ偉業…で あり ました。


お次はくじらさんです。舞台の上では同じミュージシャンでも、家に帰れば細君であり先輩であります武川道子さんも退場しまして…


くじらさん:赤いアルバムのなかに、ボクの曲が入っていまして…それをやりたいと思います。


どうやら≪ツァラトストラ≫の導入にあやかって、メンバーの朝ぼらけソングを取り上げる模様です(それだったら≪紅いの翼≫を聴きたかっ…なんでもありませんっ)。



『ムーンライダーズ』
≪頬うつ雨≫
作詞曲:武川雅寛

一気にこう湿っぽく、おとなしい感じになるのはなぜなのでしょう♪ともあれ、くじらさん弾き語りによります≪頬うつ雨≫。もう感無量と言った感じ。ビットールさんはアコーディオン。見事にこう、大らかで、名前の通り、雅で寛容なくじらさんのキャラクタがにじみ出るような演奏。先程は見事なカウンターテナーを聴かせてくれたくじらさんですが、今度は柔らかな低音でこれまた伸びやかで美しい。曲想も、歌詞も、非常にロマン的。すべてにおいて筆舌尽くしがたいものです。


慶一さんの朝ぼらけソングはすでにたっぷりやってしまったので、次のバトンはふーちゃんに。


ふーちゃん:では、ライブ音源にしかない曲ですが…≪月の酒場≫を。


≪シナ海≫ではないところが、さすがはふーさま。しびれるわ*



≪月の酒場≫
作詞曲:鈴木博文

全体的なアンサンブルがとてもすてき、じっと目をつぶると自然と音に集中することができました、ふーちゃんのボーカルが若りしころよりずっと渋みとビブラートがかかっていて雰囲気がでて見事。くじらさんのヴァイオリンと、ビットールさんのピアノにふーちゃんのベース。まさしく酒場に、しんみりと流れているビンテージテイスト。どうすることもできなくなったときに心のオアシスにふと耳を傾けると、この寂寥感のあるジャズにさえ通じそうな、わびしい音が、そっと慰めてくれるように聴こえる、そんな感じ。


ふわっと秘境の地から目をさましてみると、ステージ奥の東京中低域さんが奇妙なかぶり物をして…良明さんの出番です!(あまりにかぶり物がおかしくて、一瞬良明さんが『魔笛』のタミーノよろしく魔法の笛いやギターをかき鳴らし、それにあわせて動物たちが楽しく踊りだすのかと妄想してしまったでないか!)


調弦をして気合いを整え!



『カメラ=万年筆』
≪アルファビル≫
作詞曲:白井良明

キャラクタが出るな〜ホントに!一気に豪快で、大胆で、力強くたくましい演奏に。ここまでメンバーひとりひとりのキャラクタが違えば、お互いに羨望とか嫉妬とか僻みとか、抱いているヒマもないというものか…。ばんちょがあの難解な歌詞をしっかりと暗記して唄われているのにぐぐっと痺れました。卓越した記憶力。それはきっと曲一つ一つに対する良明さんの思い入れと気合いの表れ。だからこそあれだけ自信を持って曲が演奏できるのだと確信するあまり。「アルファビルより愛をこめて」はみんなで合唱♪岡田さんも、ボコーダーかけたままにマイクに向かっておりました。


さあ残るはかしぶちくん!
一気にステージから人が去り、前座にギターを抱えたかしぶちさん。ピアノは矢野顕子さん。
隣にヴァイオリンのくじらさん。



『ムーンライダーズ』
≪砂丘≫
作詞曲:橿渕哲郎

場内が騒然となり拍手が沸き起こる瞬間…!かしぶちくんの朝ぼらけソングからはこのナンバー。ムーンライトリサイタルでは若干リズムを崩して唄っていましたが、今日は原曲通り。矢野さんが少年合唱のパートを優しく唄いかけます。しかし、やっぱりかしぶちさんの曲は、かしぶちさんがピアノ弾いて、かしぶちさんが自演してくれないといけないなーと…それだけ解釈が難しいということにもなるのですが。かしぶちさんの声も、去年末のAXと違って不安定な軽い声でちょっぴり残念。



ここからゲスト様のコーナーです。


ゲスト様の曲を中心に5曲。かしぶちさんの≪リラのホテル≫も演奏されました。が、これもやはり、かしぶちさん独特のエロスがなくなってしまっている感がぬぐえない。妖艶な男にしかやってはならぬということか…。
矢野顕子さんの曲で太鼓をたたくくじらさんが、あまりににこにこ笑顔。一人さりげなく客席にアピールする彼はやっぱり控えめな立教的。
そして徳武さんの曲は非常に、現在のOPUSに近いサウンド。今なお大きな影響を残しているのかしらと思ってみたり。

外国語を知らないのは自国語を知らないことだ、とはドイツの某文豪の言葉ですが、ゲスト様の演奏を聴いていて、私には知らないゲスト様の「新しい世界」を知ることができるとともに、ムーンライダーズにしかない「何か」が再発見できたように思います。それはもしかすると単純に豊潤なメロディなのかもしれないし、それとももっと複雑で、五感で感じ取れる狭い範囲には存在していないものなのかもしれない。でもひとつ大きく確信したことは、ムーンライダーズというバンドのファンをやっていて、本当によかったということです*


ところで来週の14日、15日にも南佳孝さん、あがた森魚さんがライブをするので、慶一さんやくじらさんなどもゲスト参加の予定とこのこと!
残念ながら、14日は立教大学でもうひとりのケーイチ、曽我部恵一さんのソングライターズの講座に申し込み済み、15日はたしかお気に入りのピアニストのリサイタルがあるので両日とも聴きに行くことはできませんが、みなさま体大事に仲良く、ご活躍ください!


屈託ないやりとりが舞台上でかわされ、一度退場。いそいそと去ろうとする岡田さん、慶一さんの「ムーンライダーズ!」の呼び掛けにあわてておたおたと手を振る彼。いかにも岡田さん…。良明さんは胸の赤いお花をつまんでちょっぴりひっぱり、どうしようかな?と首をかしげたまま花を戻して退場。客席に投げるわけではないのですね…そして入場。慶一さんが赤のガウンを脱いで、黒スーツに着替え、帽子をかぶっての入場。くじらさんもなにか雰囲気が変わっていたような…(彼はどのライブでも退場するたびに服替えている気がするのです…が)ともあれ、再びムーンライダーズの楽曲です。



『モダーンミュージック』
≪ヴィデオボーイ≫
作詞曲:鈴木慶一

火の玉ボーイがたった3年でヴィデオボーイになってしまったのです、と演奏を開始する騎士団たち。序奏は岡田さんのキーボードから。これを聴くと、あ、≪ヴィデオボーイ≫だ!とわくわくしてしまうサウンドです。少し前のめりになりながらも軽快に唄う慶一さん。アンサンブルは非常に安定したがっしりしたもの。3年でシアワセの箱(テレビ)の中身をコピーできるようになってしまうとは、時代がいかに勇み足であったかを感じます。この歌も、どことなく皮肉ですし!(そして私はいまだにシアワセの箱すらもってない、もってないことをお国から疑われてさえいる御身分です…いつかきっと雷が落ちます)


ここで慶一さんのアナウンス。今後は夏のフェスティバルに手を伸ばしているところとのこと、そして秋にはニューアルバムを出します、ということでした。


昔のアルバムをこうしてすべて演奏してみると、逆にまったく新しいものが生まれそうな予感がするので、楽しみにしていてください!と意気込む慶一さん。
そこで暗い曲をやります、と場内が暗くなります。



『モダーンミュージック』
≪バックシート≫
作詞曲:橿渕哲郎

文句なく。この曲が聴けたらもう天まで駆け上るしかありません。重厚な曲想はこれでもかというほどにふんだんに引き出され、昔も今も変わらぬかしぶちさんのデーモンがぎゅっと抽出され、昇華したこの曲の、きわめてロマンティッシュな暗い響きと、そこに乗っかるギターの無機質な音が驚くほど絶妙に交錯し、溶けあいます。崖から一気に地獄の闇に落ちて行きそうな歌詞は生々しくかつあまりに現実離れしていて。そして去年末のAXと変わらず、インストルメントのアレンジは非常に形而上学的。言葉、すなわち歌詞による意思伝達を諦め、音楽という万年筆にすべてを託そうとする姿勢はのちの『カメラ=万年筆』のスタイルをほのめかし、最後の最後でくるっと無機質な響きが岡田さんのキーボードに乗り移ってしまう技巧は見事としか言いようがなくて。夜明けに向けて飛ばした車はおそらくは、崖から離れ、音と光が一気に会場の空気に融合し、未分化した万物の中に行き、滅び、溺れ、沈んで、無意識のうちに至福の悦びに…。


…とうとう最後の曲です。



『Tokyo 7』
≪6つの来し方行く末≫
作詞:鈴木慶一 作曲:岡田徹

散々地獄の暗闇に場内をひきこんでおいて、ぱっと岡田さんの純粋な全音階で終わるところ、まったくいかにもライダーズです。なんだかこう全員がぐったりと疲弊しきっている感すら漂う≪来し方行く末≫、それは逆にどれだけこのライブにムーンライダーズのメンバーが全身全霊を注いできたかを物語っているようで、非常に心地の良い「疲弊」なのです。さっきは軽い声で心もとなかったかしぶちさんですが、彼はすっかりもちなおして―それとも調子が整って、彼らしいデモーニッシュな低音ボーカル。すっかり満足vばんちょが、「考えて過ぎても」を非常にマイルドに出した後に、ぐぐっと力を込めて残りを唄いきったのは斬新的。先月62歳のお誕生日を迎えた年長者岡田さんは乾いたテナーで語尾をこするような唱歌。きっと「花」は、岡田さん本人が「オールアクセプト」と言った彼の誰に対しても分け隔てなく接しようとする、軟らかな心根、いうなれば内なる美のメタファーなのだろうと思います。


さあそうして騎士たちがぞろぞろと退場、これでおしまいなのかな?と思ったらちゃんと…ゲストの皆様と一緒に盛大なアンコールが用意されていました。



≪大寒町≫
作詞曲:鈴木博文

いいな、とポロっというのであれば、まさにこのアンコールのことだろうと思います。一瞬ふっとフォークのような雰囲気を想起させつつも、そうではない新しいサウンドをまとったメロディ。オリジナルと博文氏自身によるカバーを折衷したようなアレンジと記憶していますが、このような感じでライブを締めるやりかた、熟達していて趣があり、ホントに大好きです!ちなみに矢野顕子さんがピアノで、ビットールさんはアコーディオン。最後の最後までこの岡田リアンめはいい思いをすることができましたです*


最後はもちろん、みんなでありがとうのお辞儀。岡田さんなんて心から、光栄です…今日は来てくれてありがとう、ホントにありがとう…なんて大仰にジェスチャーされているし。ふーちゃんもさわやかににこにこされているし。退場の間際にはなにやら物音がして、最後の最後までなにがあったやら、まったくすべてがムーンライダーズであります。




総括
うーん、それにしましても。どの曲だったか、岡田さんがキーボードに向かいながら手持ち無沙汰にバタバタされていたのとても可笑しかったのに!思い出せないのが残念です…残念と言えば当の岡田さん、洋服のせいかひょっぴり痩せて―やつれて見えたのも悲しい、しょぼーん。35周年ということでお忙しいこととは思いますが、お体くれぐれもお大事になさってください…。



作曲者別演奏曲目内訳
ばんちょ=1曲
くじら=1曲
ふーさま=2曲
かっしお=3曲
ビットール=4曲
慶一さま=9曲



新アルバムはロマン派風細切れパッチワークを13曲ぐらい連ねてひとつの曲としてアルバムを表現する、という難しいが魅力的な手法をとってくれたら面白いのになぁ!なんて。とにもかくにも楽しみにしています。ムーンライダーズを励みに、卒業論文に取り組む秋となりそうだ♪



バンド結成時の取り巻きとも朗らかに共演するライダーズ。
35年の齢を重ねてなお、古き良き友人同士切磋琢磨しより高みの音楽を目指す6人の騎士たち。


Should auld acquaintance be forgot,
and never brought to mind?
旧友は忘れていくものなのだろうか、


Should auld acquaintance be forgot,
and auld lang syne?
古き昔も心から消え果てるものなのだろうか。


For auld lang syne, my dear,
for auld lang syne,
友よ、古き昔のために、


we'll tak a cup o' kindness yet,
for auld lang syne.
親愛のこの一杯を飲み干そうではないか。 


スコットランドの民謡をバックに去りゆく騎士団にふと、強い絆を高らかに歌いあげたその曲の歌詞がぴったりと重なりました。






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