さまよえるお化けたち

「むずかしい!」
ホンテッドマンションから命からがら逃げだしてきたニンテン、ロイド、アナは同時に叫びました。

「どうしたらお化けの気持ちがわかるかな?」
「どうしたらお化けを傷つけずにすむかな?」
「どうしたらお化け屋敷でよかったがみつかるかしら?」
バットを下しながら、メガネをこすりながら、リボンをいじりながら3人はてんで勝手につぶやくとその場に腰を下ろし作戦会議をおっ始めました。つまり、とニンテンが口火を切ります。この屋敷の奥にローズマリー嬢愛用のピアノがあり、ローズマリー亡き後も1小節の旋律を奏でている。それはきっと僕らの集めているメロディの一部。
「でも屋敷の中は妖怪変化がうようよしていてちょっとやそっとでは奥の部屋にたどりつけないというわけ!」
ハローウィン。そう、この町の持つ名前にあまりにふさわしすぎる幽霊屋敷。きっと、ハローウィンの夜にお菓子と引き換えに追い出された幽霊たちが行き場を失ってこの屋敷に集まったのでしょう。
「だから!」とロイドが目を見開きます。「ここのお化けたちをお菓子で追い払うことはできません。それはあまりに無慈悲な行為です」
「そうね、お化けがかわいそう」
「じゃどうかな、僕らもお化けのふりをするっていうのは」
「だめですよ、ニンテンさん! いくら相手がお化けだって他人をだますのは悪いことです」
「そうよ、それよりもっと楽しいムードをつくるといいわ! お化けたちだってこんな薄汚い屋敷でじめじめするより陽気に歌って踊るほうが大好きなはずよ」
「なるほど!」ロイドがひらめいたようにうなずきます。「それならばいっそのこと幽霊屋敷で盛大なハローウィンパーティを行いましょうよ!」
「そいつはすごいアイディアだ! ちょっとまって、僕、あれとってくる。お化けたち もしも踊りをなさりたいなら ギターを弾いて差し上げましょう!」

テテテテテッシューッっとニンテンはテレポーテーションを試みマザーズディにすっとんで行きました。
「よかった! 私、こんな暗いお化け屋敷でどうやってよかったを探そうか困ってたの。今回ばっかりは私にも難しかったわ、でもちょっと考えてみたら簡単にみつかった!」
私、うれしい! ぴょんとはねてアナはロイドの腕をとりくるくると舞います。こうなるともう町の陰気なムードも、お化け屋敷のおどろおどろしい空気もへったくれもありません。早くニンテンったら戻ってこないかな! さっきまであんなにどよめいていた胸の内が今はボールのように弾みます。ニンテンが彼の大切なギターを抱えて戻ってくると、3人はお祭り騒ぎに沸き立つ胸を抑えきれず、意気揚々とローズマリーのお屋敷に突進しました。


さあ、面を食らったのはお化けたちのほう。田舎生まれのゴーストから貴族出のカッチュウまで、幽霊たちの出身は様々ですが彼らが人間たちに恨みを抱いていることに間違いはありません、なぜなら人間たちは無慈悲にも自分たちを自分たちの生家と土地から永久に追放したのですから! そんな宿敵がこの屋敷に入ってこようものなら、嫉妬心と深い復讐心に満ち満ちた「うらめしや〜」で彼らをおどかし、自分たちの最後の砦を護るのが常だったというのに。いま、ここに入ってきた3人のちびっこは、自分たちを恐れるどころか楽しそうにギターを弾きながら踊りだしてしまったのです!

こんなことお化けたちにとってこの屋敷での長い長い歴史の中でいまだかつてない非常事態、屋敷中がどうしようどうしようの大パニック。アナたちの踊りが終わると、おずおずと一人のカッチュウが乙女の足元に跪きました。
『どなたか存じませんが…いったいどのような目的でこの屋敷に?』

しゃがれ声でカッチュウは恭しくアナを仰ぎます。貴い家柄の騎士の魂なのでしょう、彼の声は低く威厳に満ちていました。
『私どもの魂はハローウィンの夜、昇天できぬままに生家を追い出され、永久にさまようこととなった…そして流浪の末にたどり着いたこの屋敷にしか、もはや私どもには住むところがないのです。…ですからどうか』
『かわいそうに! でも安心して、私たち、あなたたちと仲直りしたくてここにきたの。この屋敷からあなたたちを追い出したりなんかしないわ』
うんうんとニンテンがうなずきます。テレパシーで会話しているんだな、そう察してロイドも適当に相槌を打ちます。
『それに…。今日はそのハローウィン、お化けたちの夜じゃない! 悲しいことなんて忘れてみんなで大騒ぎしましょうよ!』
『おお』カッチュウが深い声で呻きます。『貴方の言葉は神の言葉です!』

もし彼が生身の人間であったなら偉大な騎士の頬は感謝の涙でぬれていたことでしょう。アナの小さな手をやさしく握るとカッチュウは振り返り息を殺しハラハラしているほかのお化けたちに少女の提案を伝えました。とたんにお化けたちの大歓声。早くもパパパン! とシャンパンのコルクの飛ぶ音。ありとあらゆるすべてのお化けが愉快そうにお酒を飲んで歌って踊りだします。ニンテンはギターを構えて軽快ロックに燃え上がり、ロイドはゾンビたちと定番≪モンスターマッシュ≫を踊っています。

アナはピアノの部屋にクラシックファンのお化けたちを集めて、無邪気なモーツァルトのソナタを演奏してお化けたちから(われんばかりの)大喝采! 何年も、何十年も弾かれることのなかったピアノがまさにいま再び生を受け生き返った喜びに、声高らか感謝の音色を歌いあげます。

「よかった! ピアノが私にありがとうって言ってるわ! それにあのお化けたちはウィーンのサロン生まれなのかしら? 数世紀ぶりにモーツァルトが聴けてすっごく嬉しそう!」
顔をほころばせアナはお化けたちにやさしく微笑みます。


―そのとき…甘く切ない女声がそっと一言、耳元で囁くのが聞こえアナははっと振り向きました。
ひどく醜い風貌の女性がそこにひっそりとたたずんでいました。彼女は肩を震わせ、アナに懇願するようにひとつの言葉を繰り返します。ボロボロのドレスの裾をひたひたとすってアナに歩み寄り、小さな顔に覆いかぶさったいばらのようにぐしゃぐしゃの長髪を申し訳なさそうにかきわけ、赤く充血した、しかし無邪気であどけない瞳の奥から…その醜い女性はアナに強く、強く訴えました―。


水を打ったような静寂。


アナは女性の亡霊に大きくうなずき、どうか魂たちが安心して天国に行けますようにと心の中で切に祈りながら鍵盤をなぞり始めました。その音色はピアノの部屋からあふれ出し屋敷全体に鳴り響きます。ニンテンもロイドも踊るのをやめてアナの音楽に聴き入ります。お化けたちもふざけるのをやめて棒立ちになります。
―彼らの表情は感銘を受けたように穏やかで優しくそして輝いていました。お化けたちはそっと十字を切るようなしぐさをすると互いに互いの手を取り合います。
―主よ、こうして我々は救われた!―
ざわざわとどよめきが上がったとたん、屋敷中のお化けというお化けが神々しい光に包まれとけるように消え始めました。あっけにとられ黙り込んでいるニンテンとロイドの肩を、部屋からでてきたアナがそっとたたきます。彼女に促され屋敷の外にでるとニンテンたちはさらに息を詰まらせました。

何百、何千という天使の大群が屋敷を覆い、まばゆいばかりに光り輝く魂を受け止め慈悲深く頭を垂れると雲間に吸い込まれます。屋敷全体が神秘のヴェールに包まれたように薄い黄金色に輝きます。絹のような光の中でそれはまさしく天上の奇跡としか言いようがなくて―! 心を奪われたように奇跡を見つめうっとりしているニンテンの横で、敬虔な心の持ち主であるロイドは地面にくずおれ感謝の祈りをささげ、牧師の娘アナは目をつぶって胸の前で手を組んで至福の笑みを浮かべています。

最後の魂が救済されるとあたりは突然暗くなりました。マンションももとのみすぼらしい風貌の建物に戻りました。
「驚いたな、アナ! さっきの曲のおかげかい?」
「うん。あの亡霊、ローズマリーさんだったんだわ。彼女がね、私にリクエストしてくれたの…レクイエム、ずうっと前に、ママが私に教えてくれた曲」
そういえば、ママ元気かな? 出会えたらまずこのことを話してあげなくっちゃ! ママにすてきなお土産話ができてよかった! 悲しい胸の内を押し隠してにっこり笑うとアナは大きく伸びをしました。
「それでアナ」ロイドがすすりあげながら決まり悪そうに肩をすくめます。「メロディは聴いてきました?」
「あらいけない(ヘブンズ・ゴッド)! すっかり忘れていたわ」
そのダジャレに免じて許したげる、もう屋敷に危険な魂はいないからね!
ニンテンのまぶしい笑顔にアナもロイドもニコニコと笑って、そして3人は改めて、安全になったその趣深い屋敷の扉をそっと押し開けるのでした。

いままでMOTHER1でギャグめいたもの書いたことないな…ということに気がつきまして、それじゃあギャグっぽい話も書いてみようと!と思いたち…。ハローウィンの幽霊屋敷もギャグで煮詰めればこんなもんさ、ふふんのふんふん♪(違います・怒)ちなみに、ニンテンさんがテレポーテーションを覚えるのはハローウィンより先の町、イースターですが、そこは…まあなんといいますか…イースターに行ってから幽霊屋敷に行った!ということにしておいてください!!テレポーテーションの効果音をどうしても書きたかったのです!!!


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