ロマンティッシュな妖怪変化

―かつてはゴールドラッシュの熱狂に毎晩のようにお祭り騒ぎに浮かれ狂っていた町、ハローウィン。毎年10月31日の夜になると、この国のどの町にも見られないほどの多種多様な「お化け」たちがあらわれ「お菓子ちょうだい! くれないといたずらするゾ!」の可愛らしい呪文が飛び交ったハローウィン。

…それが。

ある年、ハローウィンの仮装パーティの準備をしていた子どもたちが全員、何者かにとりつかれたように意識を失ってからというもの、この町は目に見えぬ狂気に支配され、文字通り「死者の町」と化してしまいました。

スノーマンからの帰路。夜も遅くてやむを得ずハローウィンの町に途中下車したニンテン、ロイド、アナは、暗くてじめじめした街路をたどりながら一夜の宿を求めて歩を進めていました。ところが3人の少年少女はそれぞれ違った理由で、この町のおどろおどろしい空気なんぞは歯牙にもかけていませんでした。

まずは―野球少年のニンテン。ニンテンにとって、いや厳密に言うと、幼馴染の少女が何の疑いもなく墓場で遊ぶニンテンにとって、ゾンビも、棺桶も、遊び仲間かおもちゃのひとつにすぎません。かくれんぼのときには棺桶の中に隠れておけばまずは誰にもみつからないという次第でした。

そして―科学少年のロイド。ロイドにとって、いや厳密に言うと、化け学の力を借りて妖霊を召喚してはいじめっこを追い払うのが大得意のロイドにとって、お化けも鬼火も、幻覚かある種の化学変化の一種にしかすぎません。暗闇で塩素化合物をしみこませた綿に火をつけて放り投げれば、どんな嫌味ないじめっこも肝をつぶして逃げ出すという次第でした。

最後に―牧師の娘アナ。アナにとって、いや厳密に言うと、教会で神さまに鎮魂をお祈りする敬虔なアナにとって、亡霊やさまよえる魂は救済の対象であり哀れむべき弱者でした。そんなときには彼女は綺麗なソプラノでレクイエムを奉唱しそっと十字を切るという次第でした。

そんなわけで、この3人にとって目下最大の敵は「目に見えない狂気」なんぞではなく「目に見えない食い気」であり「目に見えない眠気」でありました。空っぽの胃袋にご褒美をあげてごろんと横になれないものか!
「フランスの文豪のね」
とアナがたまらなくなってとっておきの持ちネタを披露します。
「デュマって人はね、スイス旅行の最中にお腹がすいて宿に泊ったんだけど、ドイツ語が話せなくて。紙にきのこの絵をできるだけ、できるだけよ、上手に描いて宿の主人に見せてきのこ料理を頼んだつもりが、ご主人は何を持ってきたかといえば!」
ニンテンとロイドは生唾飲み込んでアナのオチを待ちます。

「…アンブレラを持ってきたのよ!」


きのこの妄想を一瞬にして跳ね返した雨傘に謂れのない呪縛をかけ、ニンテンたちはホテルを探します。すると暗闇のなかにぼんやりと、消えかかったネオンサインが浮かび上がりました。近付くにつれ、その光がくっきりと「HOTEL」の輪郭をあらわにすると、少年少女はほっとしました。


目つきの悪いクラークに―ロイドが機転を利かせて自分たちの名前を偽り、先のアナの笑い話をあてこするかのように流暢なドイツ語でチェックインを済ますと、ニンテンたちはカビ臭いホテルの一室に腰を落ち着かせました。まん延の停電か電気は付きません。ロイドがろうそくをとりだし、アナがPKファイアーで火をつけます。
「こんなホテルじゃ、きのこなんて頼んだら毒きのこを盛られそうだな」
「あらいいじゃない! そんな体験、最初で最後だわ!」
アナのブラックジョークにニンテンとロイドは思わず爆笑します。
「すっかり忘れてた、スノーマン産のライ麦パンがまだひとつリュックのなかに入っているんだ」
大きなライ麦パンを三等分してみんなでがぶりつきます。キメが細かくてもっちりとしたパンなのでこれで十分お腹は膨れるというもの。

暗がりでチロチロとろうそくの光が揺れます。


「砂男がやってきそうな夜ですね」
「誰だいロイド、砂男って」
「おや、2人とも砂男を知らないんですか? そりゃおっかない男なんですよ」
とロイドは相槌を打つように始めます。
「そいつは月から来た怪物でね、腰に下げた袋にはたっぷりと悪魔の砂が詰まっているんです。で、夜、眠りたくないと言ってダダをこねる子どもたちのところに行っては、その目にどっさり砂をかけてやるんです。すると子どもの目ンくり玉がぴゅっと飛び出してね、砂男はこの子どもの目が何より大好きときている、飛び出した目玉をさっとつかんで月に帰っていくというワケです」
「まあ大変! それじゃあ早いところ寝た方がいいわ」
アナがあわてて髪を縛っていたリボンをほどきます。その様子にロイドはひょっと肩の力を抜いてにっこりとほほ笑むと、
「今のはある錬金術師のお話、錬金術の実験で人間の目玉を作ろうとしたらしいですね、そのウワサが恐ろしい砂男の逸話を作りだしたのです」


いたずらっぽくタネあかしをした科学少年を、なーんだ、さすが! となじりながらニンテンたちは寝支度を整えます。ロイドがろうそくの火を吹き消します。暗くなったこの部屋にはたくさんの妖怪変化がうようよしていそう。
でもそれがなんだっていうのでしょう? 闇の中では人間と妖怪の境界線なんてちっとも見えやしません、幻想的な世界をロマンティックというなら、いまニンテンたちはまさに広大なロマンの海に放り投げられたも同然。天使も悪魔も妖怪も、人間も空気も闇も、一同に会したホテルの一室。ニンテン、ロイド、アナはお化けたちと楽しい一夜を過ごすためロマンの海に漕ぎ出します。そのために必要な、「夢」という豪華船に身をゆだねて―…!

MOTHERハローウィン創作…ですが、とてもポジティヴにお化けムードを楽しむニンテンたちのお話です。お化けなんかこわがらないで、人間から門戸を広げて歓迎すればいいのに!←
ニンテンはピッピの影響で棺桶とか好きそうです;「かくれんぼの時に棺桶のなかに隠れておけばまず誰にも見つからない!」ニンテンさん、それはあまりに本格的過ぎるよ!!


inserted by FC2 system