予期せぬ贈り物

粉砂糖とも見紛う真っ白な雪に包まれたスノーウッド校。しんしんと、雪の降る音が聞こえてきそうなぐらいに静かな夜。ちょうど一年前、世界を救う旅と銘打ってジェフが寄宿舎を脱走したのも、こんな暗い静かな夜でした。

いらいらしながらマットが唇を噛みます。もうすぐ親友の誕生日パーティが始まる時間だと言うのに。待てど暮らせど、ジェフが部屋に姿を見せないのです。落ち着かないウォルターはそわそわしながら部屋の中を歩き回っています。今日の主役を連れに行くことになっているエリックも、どうすればよいのかわからず椅子に腰かけたまま黙り込んでいます。ふと窓越しに外を見やれば、いつの間にか天候が悪化したらしく猛吹雪です。ジェフは…まさか居残りでまだ学校の方にいるとか…いや真面目で勤勉なジェフがそんな彼に不似合いな処分を受けるはずがありません。でも、じゃあなぜ。ジェフは約束の時間に遅れた例がないのに。もしや彼の忠実で純朴すぎるルームメイトに今日のこの誕生会のことをうっかりバラしてしまって途方に暮れているとか。それとも…。

「…どうだい、ジェフ。去年はお前にもいろいろと事情というもんがあってトニーにあんなひどいことをやらかしちまったけど。今年こそは盛大に祝ってやろうじゃないかよ」
ある晩のこと。突然マットは、ウォルター、エリック、ハワード、アシュレー、マイク、そしてジェフを部屋に呼び寄せ、トニーの誕生会のことで仲間たちに水を向けてみました。ぜひそうしようよ! と喜ぶウォルター。他のみんなも大賛成のよう。そしてもちろんジェフもです。そう、去年寄宿舎を脱走する際に、トニーの誕生日プレゼントのクッキーを間違って夜食代わりにと横取りしてしまったことをずっと悔やんでいたのです―と言っても、そのことでトニーはジェフを責めはしませんでしたが。

「で、何をしてやろうか?」
ハワードの言葉に、そうだな、とマットは黙りこみます。規則の多いスノーウッドですから、大がかりな誕生日プレゼントを買うために学校を抜け出してウィンターズの町のデパートに行くなんてことは許されないでしょう。でもかといって、去年同様「クッキー」ではなんとも味気ない感じがしてなりません。

しばらくたって、あっとジェフが小さく声をあげました。

「冒険中に、トンズラブラザーズってバンドのライブを聴いたんだ。すごくよかった、ぼくらにもできないかな。なんかこう、ちょっとした楽器を演奏して、歌を歌うって言うのは」

仲間たちはひょいと顔をあげて感心の眼差しでもってジェフを凝視しました。臆病で引っ込み思案で、いつも自分の胸の内を明かすことを拒んでいたジェフがこんなにも素敵な提案をしてくれるなんて! “冒険”を通してずいぶんと彼も変わったもんだと思いつつ、6人はそれを口には出さず、大きくうなずくことで彼の提案に賛同しました。

「メインボーカルにサックス。ベース、ドラムスと、あとキーボードだった気がする」
指折り数えながらジェフはトンズラバンドの楽器編成をリストアップします。それを見ながらマットたちも真剣になって自分たちの「架空」バンドを思い浮かべます。そして意外なことに、ここに居合わせたほとんどの仲間がそれぞれ個々の楽器を演奏することができるということが発覚したのです。

まず、都会生まれのぼんぼんエリックはピアノとアコーディオンを、田舎の金持ちの家出身のマットとハワードは、それぞれウッドベースとヴァイオリンを演奏することができると言いました。
「僕、マットとベースやるよ、エレキのほうだけどね」マイクが言います。「やろうと思えば弾き語りもたぶん」
というのもずっと前の誕生日にベースギターを買ってもらい、だいぶ弾きこんだためとのことです。つづけてアシュレーもエレキギターであれば弾けるとうなずきます。
「じゃあ、ドラムスは僕で」 ウォルターが手をあげます。加えて彼は、学校のブラバンサークルに知り合いがいるので楽器の調達もお願いできるだろうと付け足し仲間から拍手をもらいました。意外な人脈です。
「残りはボーカルか。任せたぜ、ジェフ」
マットがにやりと笑います。さあ困ったと言いだしっぺのジェフは頭をかきましたが、それ以外に残された楽器はありません。そもそも、彼だけは他の仲間と違ってなにか特別に演奏できる楽器はないし…。それにむしろトニーだって、ジェフの歌声が聴ければ本望でしょう。彼はにっこり笑ってうなずきました。

「にしても…」とエリックが苦笑します。「ロックバンドにヴァイオリンやらベースなんて! 特殊にもほどがあるよ」
トニーもおったまげるだろうな、とハワードが頭をふりふり。それだからこそ僕らのバンドじゃないか、とウォルターが笑ってみせます。ともあれ楽器編成も決まったところで、次の問題はどんな曲を演奏するか、ということです。

ジェフが、これも旅の土産に大都会のデパートで手に入れたLP盤―これに“襲われたんだ”と彼は言いましたがさすがにそれを信じる仲間はいませんでした―に収録されていた≪バースデイ≫という曲がすぐに目についたのですが…。

どうしよう ここはどこなの
どうしよう 何も知らない
どうしよう 君はだれなの
どうしよう 顔を見ないでよ



「この解釈をあのトニーの単純な脳みそに求めるのは誕生日プレゼントを横取りする以上に酷だろうな…」
ハワードがふぅとため息をつきます。あれこれ苦労してやっとこ再生してみたわりに残念ながら得るものが何もなく、採用不可の烙印が押されお蔵入りしたLPを脇に、一同の選曲作業は振り出しに戻りました。

「どうしよう」
―≪バースデイ≫の中で再三繰り返されるこの言葉を何の気なしに吐いてしまったエリックは見事仲間たちの顰蹙を買いました。―
「お前を襲ったLPはこれだけかよ」
呆れたようにマットが尋ねますがジェフはお手上げのポーズ。
「あんまりにも多すぎてすべてを回収してはこられなかったんだよ。それに、あのときはポーラが宇宙人に誘拐されてそれどころではなかったし」苦笑交じりのジェフ。「あ、だけどトンズラのライブのあとでお土産売り場で何か買ったな…」

たいていライブの際にはそのバンドゆかりのグッズやCDが売られているものです。ロック好きのネスやブルース狂のポーラがトンズラのグッズに興味を示さないわけがありません。そんな彼らにくっついて、ポップミュージックの世界をまるで知らないジェフもお土産売り場に足を向けました。

「これはトンズラのCDじゃないんだけど」
一緒に売られていたんだ、なにか特別な意味があるんだと思うよ、と彼が机の引き出しから取り出したアルバムは、白地に赤い三日月の浮かぶシンプルなジャケットに収められたもの。エリックが眉間にしわを寄せました。
「ここにサインみたいのがあるな。…あれ、このLP盤の真ん中にもおんなじようなものがあった気がするけど」
「…Keiichi Suzuki? なんだろうね、バンドのリーダーじゃない?」
アシュレーも興味津津。確かに、ジェフはまったく気が付いていませんでしたが、CDのジャケットの右下と、あやかしのLP―レコードの中央部にまったく同じサインがあったのです!
「この人、そのダイトカイで相当有名だったのかな…」マイクが首をひねりながら口元をゆがめてみせます。「とりあえず、今度は容易に聴けそうで何よりだよ」

早速、ハワードがラジカセを運んでくると、ジェフがその不思議なCDをセットして再生ボタンを押してみました。 …そしてアルバムの先頭を飾るその曲で誰もの意見が一致しました。

軽快に弾むギターにのせて流れる、弾けるようなドラムの音。それなのに明るく簡素なメロディにのせられた詩は、物悲しく胸にしみていくよう。これにしよう、言葉に出さずとも7人の心は通じ合いました。

さて、それからの7人の熱中ぶりと来たら、そのエネルギーを学業に投じたらオール優をもらえるのではないかと思わせるほどで、遅れて後輩たちの秘密の計画を知ったガウス先輩はあきれ返ってしまうほどでした。絶対音感のすぐれたエリックがせっせと譜面を書き取り、みんなでそれをアレンジします。ウォルターは小さなドラムセットをブラバンの友達から借り、他の仲間は各々の楽器を至急実家から取り寄せます。ジェフは何度もCDを聴いては歌の練習です。おまけにウォルターが「君もギターを弾きなさい」とばかりにエレキギターを調達したおかげで、弾いたこともないその楽器の練習までやらされるという羽目に。

そしてそれらすべてを、詮索好きなトニーにはばれないよう行わなくてはいけないのですから、余計に神経を鋭くしなくてはなりません。しかし、どうにかこうにかジェフたちは上手くやってのけました。そして…誕生会当日を迎えるころには7つの楽器の音はきれいにそろい、彼らはプロに勝るとも劣らぬ演奏ができるようになっていました。殊にギターのエレキ音に混ざる、ヴァイオリンとウッドベースの物悲しい弦の響きは普通のロックバンドではめったに聴くことができません。7人はそのことをひそかに自慢し合っていました。


連れに行ってくる、ウォルターがそう呟いた時ドアが開いてジェフが駆け込んで来ました。全身雪まみれ、大切そうに抱えてきたギターケースも塩漬けにされたように真っ白です。6人は慌てて彼にタオルを渡します。必死に謝るジェフ、そんな彼を誰もとがめようとはしませんでした。
「どうしたんだい、ジェフ? 校舎に残ってたのかい?」
「…ごめん、今日に限って…どうしても始末しなくちゃいけない…レポートが」
お前にしちゃ珍しいこった、とマットは驚いた顔をしましたが、寒さで凍えるジェフをそれ以上問い詰めるわけにはいきません。すぐさま、エリックがインスタントコーヒーを入れてあげます。ウォルターはカイロを友人の冷たい手に握らせます。
「片羽飛行になると困るからね、間に合ってよかったよ」
アシュレーがせっせとジェフのギターケースについた雪を払いながら微笑んで見せました。そんなギター仲間に、ありがとうとジェフは頬を赤らめました。
「それじゃ、ま、主役を呼んでくる前に直前リハーサルをして、と」
エリックの一言に、6人は向きなおりうなずきます。パーティ会場のマットとウォルターの部屋はちょっとしたコンサートホールのようにされています。ベッドはガウス先輩に頼んで隅に寄せてもらい、幾分開けた部屋の真ん中に小さなドラムセットが置かれています。ピアノを調達することはできなかったので、エリックはベッドの端にちょこんと腰かけてアコーディオンを弾くことに。真紅の素敵なアコーディオンで、彼はそれをとても大切にしていました。それから聴き手である今日の主役が座る椅子も用意してあります。すべての準備は万端でした。

「完璧!」
ヴァイオリンをおろしてハワードがにこやかな笑みを浮かべます。控え目にうなずくジェフを打ち消すようにウォルターが破顔。エレキギターの2人組もヴイサインを出し、2人の陰からエリックの満足げな笑みがのぞいています。
「トニーにとんでもない美酒を飲ませてやるんだぜ!」
ぐいとジェフの手を引っ張ってマットは仲間たちを呼び寄せます。7人で手と手を重ね合わせてオーの掛け声。全員の結束は固まりました。

エリックがトニーを呼んできます。ことを何も知らないトニーは、部屋でジェフを待ちながら宿題をやっているところでした。エリックに連れられ、マットの部屋に入った彼はあっと息を飲みます。

ステージにリードボーカルのジェフが立ちます。首からは弾きなれたギターを下げています。彼の左側には大柄のハワードがヴァイオリンを持って立っています。ジェフの右隣はマイク、アシュレーの2人のギタリスト。4人の後ろにはマットとウォルターが構えています。最後にトニーを椅子に座らせたエリックが、アコーディオンを抱えてベッドの端に腰を押し付けると、ジェフが小さくギターの弦をはじきました。

まずはお約束、とでも言いたげにハッピーバースディトゥユーを演奏します。突然のお祝いにすっかり驚いて顔を真っ赤にしているトニー、そんな親友を見ながら他の7人は満足げな笑みを浮かべます。

「ハッピーバースディ、トニー!」
マットがプレゼントの袋を差し出すと、よほど嬉しかったのでしょう、トニーは頬を紅潮させ満面の笑顔で、ありがとう! とプレゼント袋を受け取ります。
「もう、横取りはしないよ、トニー…」
ジェフが苦笑します、トニーの喜びように感激して涙ぐんでしまったのか彼まで鼻声になってしまっています。そんな大親友を見ながらトニーはいたずらっぽく頬を膨らめて見せました。
「去年はホントッ、散々だったよ!」
ウソつけよ、世界を救う戦士のはなむけになったって喜んでたくせに、とアシュレーになじられトニーはすぐに舌をだして、そのとおり! と肩をすくめて見せました。

「よし、じゃあ、例のヤツ、いっちゃおうか!」
マットが言うと、ジェフも大きくうなずきました。コホンと小さく咳払いすると、7人は各々の楽器を構えなおします。突然部屋の中が静まり返ります。ウォルターがバチを握ります。ハワードがヴァイオリンに弓をつがえます。そしてギタリストたちが弦をはじきました。


悪夢ははじけるようなギターとドラムの前奏が終わってから始まりました…、トニーがはっと顔をしかめます。ハワードとアシュレーが驚いたように向きなおります。…すっかり取り乱したジェフが懸命に笑顔を作り声を絞り出します、しかしもう手遅れでした。…きっと大親友のトニーを前にしてすっかり緊張し平常心を失ってしまったのでしょう、よりによって彼は歌いだしの音を見事に外してしまったのです…。

狂った音程を元に戻すこともままならないまま曲は流れていきます。やり直し、やり直しとウォルターが合図を送りますが届きません。アシュレーが必死でジェフの暴走を止めようとするのですが上手くいきません。エリックがなんとかジェフに音程を合わせようと努力するのですが、そもそもまともに歌えなくなっているジェフにかかっては、それすらかないません。

やっとのことでボーカルがメロディに乗り始めたのは1番が終わって2番に移ってから。それでさえジェフの声は音程もリズムも不安定でした。


散々な演奏が終わるや否や、マットが冷やかに舌打ちします。続いてウォルターやアシュレーも口をとがらせます。
「だから君は、君はいつまで経ったってダメなんだ!」
いいんだよ、ジェフを責めないでよ! トニーが必死で友人をかばおうと目に涙をためて叫びますが誰も聞いていないよう。

―去年だって、やむをえない事情とはいえ、プレゼントを横取りしたのに! 今年は今年でやっぱりプレゼントをぶち壊しにしやがって!―

違うんだ…と嗄れ声で反撃しかけたジェフは、喉元にこみあげた言葉をぐっと飲み込みます。苦しそうに顔をしかめてがっくりうなだれて…。仲間たちの冷たい視線に無力の彼はもうなすすべはありません。小刻みに息を吐きながら、重苦しい場の雰囲気に耐えているようです。

やりがたい沈黙が流れます。そう、たった4分間程度の曲だったのに、それがまるで4時間のように思われ、7人の体はどっと重たい倦怠感に襲われていました。そしていつの間にかメンバーの失態を責める気力すら失せてしまったようでした。

「解散だ、とりあえずみんな、ジェフをそっとしておいて。外に出て気分が落ち着くのを待とう」
エリックの澄んだ声がします。普段通り、彼は中立的な立場を崩そうとはしません。その声にマットたちはやれやれと腰をあげました。

重たい足取りで仲間たちが部屋を後にします。残されたのはトニーとジェフだけ。そっと大好きなジェフの前に歩み寄りお疲れ様の声をかけようとしたトニーは…はっと息をのみました。思えばさっきからずっと荒々しい息を吐きながら固まっているジェフ。もう演奏が終わってだいぶ経つのに、彼の額からは滝のような汗が流れ、血の気の引いた青白い頬を濡らしています。 …いや、まさか。ぷるぷると頭を振って、彼は精いっぱいの笑顔をつくり、ジェフに片手を差し出しました。
「…ジェフ、ありがとう! 疲れたろう、部屋に戻ろうよ」
舞い落ちる雪のように静かで優しい親友の言葉にジェフはやっと顔をあげ、かすかにうなずくと腰をあげました。 …がしかし。

彼の細い体ががっくりと前方に崩れます。ジェフッ、トニーが悲鳴をあげて大親友を抱きとめます― やっぱり、みんなの演奏をダメにしてしまった自責の念でまいっちゃったんだ、そう思いながら…。

ぐったりと倒れたジェフを抱えてトニーは息を呑みました。
「いいんだ…先に行って。落ち着いたら…追いかけるから…」
弱々しいジェフの声。トニーの悲鳴を聞きつけたエリックが戻ってきます。どうしたんだい! 普段はおとなしいエリックの悲痛の叫び。トニーがさっと顔だけ振り向きます。
「早く先生を呼んできて! ひどい熱だ…」

医務室に運びこまれ、血の気の引いた腕に点滴の針が通されます。見れば大切な仲間の腕には他にも注射の跡が…。
「ご存じなかったのですね、かれこれ2日ぐらい前から通っていたのですよ。重い風邪を引いていて、安静にしてなさいと言ったのに、なんとか点滴で治せないかと言われて。今日もついさっきまでここで休んでいたのです」
先生に言われ、マット達は驚愕の余りがっくり肩を落としました。それで、あの遅刻もそのせいで。それでさっきのジェフはあんなにも不調で、あがるとかあがらないじゃなくて…。そもそも歌なんて歌える体じゃなかったんだ、楽器なんて演奏できる腕じゃなかったんだ。リハーサル中はそう見えなかったのに、もしかすると“本番”直前に薬が切れてしまったとか。全くの悲劇! もう6人のバンド仲間の胸から、ジェフを責める気はすっかりなくなっていました。

「でも」とアシュレーが言います。「それなら言ってくれればよかったのに、どうして」
「言えるわけないだろ…僕らは7人で1つなんだもん。満月は少しでも欠けたら満月じゃなくなるんだ」

ウォルターがたしなめるように舌を鳴らします。仲間想いのジェフの懸命な気持ち。ジェフは心底、今日という日を楽しみにしていて、だからこうやって病躯に鞭打ってお誕生会にも参加して。でもその強い想いが結局は仇となってしまった、ジェフのトニーを祝ってあげたい気持ちがあまりに強くて、お誕生会は台無しになってしまったのです。
「満月が真ん中で明るすぎて、僕らの間距離がよく見えない…か。もしかすると今宵の俺たちは輝きすぎたのかもしらんな」

マットが皮肉交じりに漏らした時。ふっと目を開け、ジェフは瞳をふるわせました。彼が気がついたのを見るや否や、ぐいっと涙をぬぐってトニーは破顔します。
「いつの日か、苦い思いはロケットに乗せて飛ばせるような男になるんだろ、ジェフ!」
トニーの言葉に当のジェフはおろか他のメンバーまではっと目を見開き笑みを浮かべました。突然、ほわっと、甘い気持ちが落ち込んだ心に広がります。

「…違うんだ」かすれ声でジェフも笑みを浮かべ、先に飲み込んだ言葉を紡ぎだしました。「トニーを…祝ってあげたくて…黙っていてごめん…でも結局、またすべてを台無しに」
「なに言ってんだい、最高のプレゼントをありがとう!」
トニーが口元をゆがめプレゼントの袋を眺めます。じゃらっと、カラフルなコンペイトウが透明なビニール袋の中で可愛らしい音を立てます。
「こんな素敵なプレゼントもらったの、生まれて初めてだ!」

そう、甘くほろ苦いプレゼント、ジェフのポケットから転がり落ちた小さな星くず。

―Sweet Bitter Candy―

スノーウッドのみなさんとムーンライダーズの楽曲《Sweet Bitter Candy》(作曲:白井良明)を出会せたらこのような作品に…。これはいつぞやのライダーズのライブで白井さんが風邪をおしてステージに立ち出落ちしてしまったけれど最後まで声を限りに唄いきったエピソードに基づいています。それにしてもどの業界でもたいてい騒ぎを起こすのはテノールと相場が決まっているのでしょうか…。


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